今回は昨年度の試験の解答と解説を5回に分けて掲載していきます。昨年落ちてしまった方はぜひ一度目を通していただき、本年の合格のために生かして頂ければと思います。試験は「なぜ間違ったのか?」見直しが非常に重要です。
【問1】
法律行為に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。【令和6年度試験】
1 営業を許された未成年者が、その営業に関する意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合は、その法律行為は無効である。
2 公の秩序に反する法律行為であっても、当事者が納得して合意した場合には、その法律行為は有効である。
3 詐欺による意思表示は取り消すことによって初めから無効であったとみなされるのに対し、強迫による意思表示は取り消すまでもなく無効である。
4 他人が所有している土地を目的物にした売買契約は無効であるが、当該他人がその売買契約を追認した場合にはその売買契約は有効となる。
正解1
1正しい。意思表示を欠く状態で行った法律行為は、無効です。泥酔などがこれにあたる。ただし営業を許された未成年者が意思能力を有した状況で、意思表示を行った法律行為は有効。
2誤り。当事者が納得して合意していたとしても、公の秩序又は善良の風に反する法律行為は、無効です(民法90条)
3誤り。まず、「詐欺」による意思表示は、取り消すことができる(民法96条1項)。そして取り消すことにより、その意思表示は、始めから無効であったとみなされる(同法121条)。これは「脅迫」においても同様で、脅迫による意思表示も取り消すことにより、初めて無効となります(同法96条1項、121条)問題分の「取り消すまでもなく無効」という部分が誤り。
4誤り。他人の所有物を売買するようなケースを他人物売買という。民法においてこのような契約は有効。(同法561条)
問2
委任契約・準委任契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 売主が、売買契約の付随義務として、買主に対して、マンション専有部分内の防火戸の操作方法につき説明義務を負う場合、業務において密接な関係にある売主から委託を受け、売主と一体となって当該マンションの販売に関する一切の事務を行っていた宅地建物取引業者も、買主に対して、防火戸の操作方法について説明する信義則上の義務を負うことがある。
2 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
3 委任契約で本人が死亡しても代理権が消滅しない旨を合意して代理人に代理権を与えた場合、本人が死亡しても代理権は消滅しない。
4 委任は、当事者の一方が仕事を完成することを相手方に約し、相手方がその仕事の結果に対しその報酬を支払うことを約さなければ、その効力を生じない。
正解4
1正しい。宅建業者が売主から委託を受け、売主と一体となって一切の事務を行い、買主の購入から引渡しまでを行った。そして買主はこの宅建業者と契約を締結し、引渡しを受けたという流れが考えると、この宅建業者は、買主に対し、防火戸の操作方法について説明すべき信義則上の義務があると判断される。
2正しい。委任は、委任者と受任者の信任関係をベースにするもの。よって、受任者が委託された事務を自ら処理する必要があり、原則として他人に復委任することは、認められません。ただし委任者が許諾した場合、やむを得ない事情がある場合はこの限りではない。
3正しい。死後事務委任契約は、委任者が死亡した時点で、契約は終了ということになってしまいます。しかし死後事務委任契約は、「委任者の死亡によっても契約を終了させない旨の合意」が前提であり、このような合意は有効である。との判例(最判平04.09.22)がある。つまり委任者が死亡しても、代理権は消滅しない。
4誤り。本肢は委任契約の内容ではなく、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」という請負契約の内容です。
問3
甲土地につき、A、B、C、Dの4人がそれぞれ4分の1の共有持分を有していて、A、B、CのいずれもDの所在を知ることができない場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、Dの共有持分は、相続財産には属していないものとする。
- 甲土地に、その形状又は効用の著しい変更を伴う変更を加える場合には、共有者の過半数の同意が必要であり、本件ではA、B、C3人の同意が必要となる。
2 甲土地の所有権の登記名義人となっている者が所有者ではないEである場合、持分に基づいてEに対して登記の抹消を求めるためには、所在が判明しているA、B、Cのうち2人の同意が必要である。
3 A、B、C3人の同意があれば、甲土地を資材置場として賃借したいFとの間で期間を3 年とする賃貸借契約を締結することができる。
4 Aが裁判所に請求して、裁判所がDの持分をAに取得させる旨の決定をした場合、Dは、その決定から3年以内に限り、Aが取得したDの共有持分の時価相当額をAに対して支払うよう請求することができる。
正解3
1誤り。本肢の「形状又は効用の著しい変更を伴う変更を加える」は、重大変更のケース。各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に形状又は効用の著しい変更を伴う変更を加えることができない(民法251条1項)。つまり、全員一致が要求されるため「共有者の過半数の同意」では不十分となる。
2誤り。登記記録上の所有名義者に対して、登記の抹消を求めることは、保存行為に該当する。そして保存行為は各共有者が単独で行うことができる。つまり「A、B、Cのうち2人の同意」を得る必要はなく単独で登記抹消を請求することができる。
3正しい。土地貸借で5年以内、建物貸借で3年以内の賃借権を設定する行為は、利用・改良行為として扱われる。よって持分価格の過半数で決定することが可能となる(民法252条4項)。本肢は土地を3年間賃貸借する契約なのでこれに該当する。A、B、C3人の同意があれば、持分価格の4分の3に達するので、賃貸借契約の締結が可能となる。
4誤り。所在等不明共有者であるDは、取得者であるAに対して、取得した持分の時価相当額の支払を請求することができます。またこの支払請求権に特別な制限はないため、本肢においては時効のルールが適用されます。したがってDは、権利を行使することができることを知った時から5年間、もしくは権利を行使することができる時から10年間のいずれかの先に到来する期限までは、支払を請求することが可能。
問4
Aを売主、Bを買主として甲土地の売買契約(以下この問において「本件契約」という。)が締結された直後にAが死亡し、CがAを単独相続した場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
1 売買代金を受領したCが甲土地の引渡しを拒絶する意思を明確に表示したとしても、Bは、Cに対して相当の期間を定めた催告をしなければ、本件契約を解除することができない。
2 Bが期日までに売買代金を支払わない場合であっても、本件契約の解除権はAの一身に専属した権利であるため、Cは本件契約を解除することはできない。
3 Bは、売買代金が支払い済みだったとしても、甲土地の所有権登記を備えなければ、Cに対して甲土地の引渡しを請求することはできない。
4 本件契約が、Aの詐欺により締結されたものである場合、BはCに対して、本件契約の取消しを主張することができる。
正解4
1誤り。契約の解除をするには買主が売主に履行を催告するのが原則となる(民法541条本文)ただし履行の催告なしで契約を解除できる例外が存在する(同法542条1項)。
- 債務の全部が履行不能であるとき
- 債務の全部について債務者が履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
- 債務の一部が履行不能で、残存部分のみでは契約目的を達成できないとき
- 特定の日時や期間内に履行しなければ契約の目的を達することができないとき
本肢の「Cが甲土地の引渡しを拒絶する意思を明確に表示した」が②に該当する為、Bは催告なしで本件契約を解除することが可能となる。
2誤り。解除権は一身に専属する権利ではなく、AからCに相続される。したがって、CはBとの契約を解除することができる。
3誤り。BはAと売買契約を締結し、売買代金を支払っている為、Aに対して甲土地の引渡しを請求することができる。その後、Aが死亡しその地位は、相続人であるCに引き継がれている。つまり、売主A=Cとなるため、Bは所有権登記を備えなくても、Cに対し自らの所有権を主張し、甲土地の引渡しを請求することができる。
4詐欺により売買契約が締結された場合、その契約を取り消すことができます(民法96条1項)。Aは死亡したが、その地位は相続人Cに引き継がれている。つまり、売主A=Cとなる。したがってBは、Cに対して本件契約の取消しを主張することができる。
問5
履行遅滞に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 不法行為の加害者は、不法行為に基づく損害賠償債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
2 善意の受益者は、その不当利得返還債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
3 請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、当該残債務の履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
4 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
正解2
1誤り。不法行為に基づく損害賠償債務は、催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞となる。つまり履行の請求を受けた時からではなく、損害の発生と同時に履行遅滞の責任を負う。
2正しい。受益者が善意の場合、不当利得返還義務は履行期の定めのない債務だと考えられる。したがって受益者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うことになる。
3誤り。本肢を整理すると、注文者が請負人に仕事を依頼した。しかし引き渡されたものに契約不適合があった。注文者は請負人に対し損害賠償請求をした。(請負人の報酬請求権と注文者の損害賠償請求権は同時履行の関係にある) 注文者は、双方の債権について相殺の意思表示をした。(報酬額のほうが損害賠償額よりも大きかった為、相殺以降は、請負人の報酬残債権のみが存在する状況となる) 注文者は報酬額(損害賠償で差し引いても足りない分)を支払う義務を、注文者から請求を受けた時から負う、というのが本肢の状況。相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う」(最判平09.07.15)という判例があり、本肢の「残債務の履行の請求を受けた時から」とする点が誤り。
4誤り。債務の履行について不確定期限があるとき、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又は、その期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う(民法412条2項)。本肢では債務者が期限の到来を知ったとあるので、その時から履行遅滞となる。つまり「履行の請求を受けた時」という部分が誤り。
問6
Aの所有する甲土地にBを地上権者とする地上権(以下この問において「本件地上権」という。)が設定され、その旨の登記がされた後に、甲土地にCを抵当権者とする抵当権が設定され、その旨の登記がされた場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはいくつあるか。
ア BがAとの売買契約に基づき、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
イ Aが死亡してBがAを単独相続し、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
ウ BがAとの代物弁済契約に基づき、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
エ BがAとの贈与契約に基づき、甲土地の所有権を取得したときは、本件地上権は消滅する。
- 一つ
- 二つ
- 三つ
- なし
正解4
本肢は「混同」の知識が問われました。混同とは、①所有権とその他の物権が同一人に帰属した場合、そのその他の物権は消滅する。②所有権以外の物権とその物権を目的とする他の権利が同一人に帰属した場合、その他の権利が消滅する。というもの。
本肢のア~エはいずれも地上権者が土地を取得して、地上権者=所有者となるケースです。しかし、甲土地には C の抵当権が設定されているため、いずれの肢も混同の例外となり B の地上権は消滅しません。また本肢の文末はすべて「本件地上権は消滅する」とあるので、正しいものはなしとなる。よって正解は4となる。
問7
Aを貸主、Bを借主として甲建物の賃貸借契約(以下この問において「本件契約」という。)が締結され、Bが甲建物の引渡しを受けた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 CがBに対し甲建物をAから買受けたとの虚偽の話をしたので、これを信じたBが甲建物の占有を任意にCに移転した場合、AはCに対して、占有回収の訴えにより甲建物の返還を請求することはできない。
2 Bが、Aの甲建物への立ち入りを建物入り口を閉ざして拒んだときは、Aは甲建物の間接占有が侵奪されたものとして、Bに対して、占有回収の訴えにより甲建物の返還を請求することができる。
3 Bが死亡して、DがBを単独相続した場合、Dは相続開始を知るまでは、Bによる甲建物の占有を承継しない。
4 AとBのいずれもが死亡した場合、本件契約は当然に終了する。
正解1
1正しい。Aは、Cに対して、占有回収の訴えを提起して、甲建物の返還を請求することができません。なぜなら占有者が占有回収の提起を訴えられるのは、「占有者がその占有を奪われたとき」「占有を妨害されたとき」「占有を妨害されるおそれがあるとき」のみだからである。本肢のBは、Cに対して甲建物の占有を「任意に移転している」ので甲建物の返還を請求することができない。
2誤り。Aは占有者が占有回収の提起を訴えられるのは、「占有者がその占有を奪われたとき」「占有を妨害されたとき」「占有を妨害されるおそれがあるとき」本肢はどれにも該当しないため、本肢の「甲建物の返還を請求することができる。」という部分が誤り。
3誤り。相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。つまり本肢の「Dは相続開始を知るまでは」とい部分が誤り。
4誤り。貸主Aや借主Bの地位は、相続人に承継されます。本肢の「本契約当然に終了する」という部分が誤り。
問8
次の記述のうち、民法の条文として規定されていないものはどれか。
1 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
3 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
4 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
正解1
1誤り。契約というのは、本人の申込みの意思表示に対して相手方が承諾の意思表示をしたときに成立します(民法522条1項)。そして、意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を発生します(同法97条1項)つまり「隔地者間の契約が成立するのは、承諾の通知が到達した時」ということになります。よって本肢の「承諾の通知を発した時」という部分が明らかに誤りとなります。
2正しい。無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負います(民法121条の2第1項)。つまり、本肢の内容は、民法の条文として規定されています。本肢の事例は、賃貸アパートを借りた際に、借主は借りた時と同じ状態にして返還するのは常識だと思うが、壁中穴だらけで返されたら貸主は困ってしまう。そこで貸主は借主に「貸したときと同じ状況で返還せよ」と請求ができる。
3正しい。本肢の代理人は、依頼者本人のためではなく、自己又は第三者の利益を図る目的で代理行為を行っている。これは代理権の濫用にあたる。代理権の濫用があった場合、相手方が、その目的について悪意又は善意でも過失があるときは、代理権を有しないものがした行為であり、無権代理行為とみなされる(民法107条)
4正しい。未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得る必要がある。(民法5条1項本文)。ただ「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」については、例外として認められる(法定代理人の同意は不要)。
問9
承諾に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
1 第三者が債務者との間で、債務者の債務につき免責的債務引受契約をする場合、債権者の承諾は不要である。
2 第三者が債務者との間で、債務者の債務につき併存的債務引受契約をした場合、債権者が第三者に承諾をした時点で、その効力が生ずる。
3 第三者が債権者との間で、債務者の債務につき併存的債務引受契約をした場合、債務者が第三者に承諾をした時点で、その効力が生ずる。
4 賃借人が賃貸借契約の目的物を第三者に転貸する場合、賃貸人の承諾は不要である。
正解2
1誤り。まず債務引受とは、これまでの債務者と別の新しい債務者が現れることを指す。この債務者を引受人という。(尚、本問では引受人=第三者) また今までの債務者が債務を負ったままの状態で、引受人が追加される形式を併存的債務引受といい、今後は新しい引受人のみが債務者となる状態を免責的債務引受という。免責的債務引受契約をする場合、債権者が引受人に対して承諾しなければ、契約は効力を生じない。よって誤り。
2正しい。債務者と第三者(引受人)が併存的債務引受契約をした場合、債権者が引受人に対し、承諾をした時に効力を生じる。
3誤り。第三者(引受人)が債権者との間で、併存的債務引受契約をした場合、契約の締結時点で効力を生じるが、その際に債務者の承諾は不要である。
4誤り。賃貸借契約において、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、賃借物を転貸することができない(無断譲渡・転貸の禁止。民法612条1項)。
問10
売買契約の目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合において、当該契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであるとき、履行の追完請求権、代金の減額請求権、損害賠償請求権及び契約の解除権のうち、民法の規定によれば、買主が行使することができない権利のみを掲げたものとして正しいものは次の記述のうちどれか。なお、上記帰責性以外の点について、権利の行使を妨げる事情はないものとする。
1 履行の追完請求権、損害賠償請求権、契約の解除権
2 代金の減額請求権、損害賠償請求権、契約の解除権
3 履行の追完請求権、代金の減額請求権
4 損害賠償請求権
正解4
契約不適合責任で買主が売主に対し、行使できる権利は①追完請求②代金減額請求③損害賠償請求④解除の4つである。ただし損害賠償請求には売主の帰責性が必要である。本問では「売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるもの」とあるので、買主は損害賠償請求のみ行使できない。よって4が正しい。
次回は問11~問20を解説します。 ※盗用、引用厳禁
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